東京都北区十条銀座商店街オフィシャルサイト『十条銀座どっとこむ』商店街加盟店 全182店掲載！

十条銀座の商店街事務所には、戦前からの長い歴史を物語る商店街の古い記録が多数保存されています。役所に提出した文書はもちろん、ポスターやチラシ、記念品、粗品のサンプルなどなど、今となっては大変貴重で懐かしいお宝が、倉庫の片隅にひっそりと眠っています。このコーナーでは、そうした資料を少しずつご紹介しながら、商店街が歩んで来た道をちょっと振り返ってみたいと思います。

　今回は、前回に引続き昭和14年度事業報告書の中から、いくつかご紹介したいと思います。この報告書には、通常の事業報告では記されない「沿革」について触れており、大変興味深い記述が見られます。

◆　東京十條銀座商店街商業組合　昭和14年度事業報告書　◆

◆ 今回、まずはじめにご紹介したいのは、”「十條銀座」ノ沿革史大要”と題する以下の文章です。長文ですが、ほぼ全文を引用します。

今日、「十條銀座」ノ隆名ノ下ニ、帝都ニ於ケル有数ノ殷賑商業地帯トシテ其ノ繁栄ヲ擅（ほしいまま）ニセル当商店街ノ発達史ノ概略ヲ述ベン。
　抑々発展ノ淵源ニ遡ルニ、伝統ヲ背景トセル他商店街ニ比シテ其ノ発端ハ極メテ近年ノコトニシテ僅々二十数年前ニハ土着ノ農家ヲ主トセル僅カ百戸足ラズノ一聚楽ニシテ、茫々タル畑地ノ彼方ニ富士ヲ眺メル武蔵野ノ一寒村ニ過ギザリシモ、ソノ後、省線の開通ヲ見、十條駅ガ新設サレ、而シテ彼ノ関東大震災ノ勃発ヲ契機トシテ、「サラリーマン」ガ破堰ノ洪水の如ク移住シ来リ、同潤会ノ住宅ノ設置ヲ見、加フルニ王子、赤羽等隣接地域ニハ軍需工業関係ノ工場設立サルルト相俟ッテ其ノ繁栄ノ急ナル誠ニ驚嘆スベキモノニシテ、十数年後ノ現在ニハ空地ヤ緑樹ノ発見スラ困難ナル程ノ飛躍的発展ヲ遂ゲタリ。
　人口ガ周密ニナリ、亦、居住者ノ種別ノ大略勤労階級ナルハ必然的ニ商店街ノ存在ヲ要求スルニ至リ、畑地ハ開拓サレ、狭路ヲ挟ミテ商店ガ新設セラレタリ。就中、其生鮮食料品商ノ如キ率先シテ「薄利多売」ヲ「モットウ」トシテ大イニ顧客ヲ吸収シ各商人モ同様ノ営業方針ニ追随セル結果、爾後コノ営業方針ハ一貫シテ「十條銀座ハ廉イ」ノ定評ヲウケル原因トナリタリ。

　如斯、遂年人口ノ増加ニツレ活況ヲ呈シ、商店ハ続イテ新築サレ、漸テ商店街ヲ形成シ、銀座一丁目会、銀座会、昭和会ノ三商店会ノ誕生ヲ見、夫々目覚シキ発展ヲ遂ゲタリ。
　当時、監督官庁ヨリ三商店会ヲ統一シテ商業組合ヲ結成スル様慫慂アリタルモ、時期尚早ノ感アリシタメ商業組合結成ハ他日ノ念願トシ、内面強化ノ第一手段トシテ十條銀座聯合会ヲ組織シ内部ノ整備ニ務メル一方、毎月１日、１５日ノ特売、中元、歳末ノ聯合大売出シ等、共同宣伝ニヨリ商店街ノ繁栄ヲ図リタリ。
　其ノ後、時流ノ趨勢ニ伴ヒ、統制アル商店街タラシムル気運強ク、亦、内部統制整備モ進捗セル結果、遂ニ昭和１３年８月、三商店会ヲ解体シ東京十條銀座商店街商業組合ヲ結成スルニ至リタリ。以後、役職員及組合員ノ孜々トシテ倦マヌ努力ノ結果、共同施設（共同陳列所、日除、街灯）、共同仕入、生命保険代理、金融等、諸事業ヲ遂行シ、遂ニ今日ノ隆盛ヲ見ルニ至リタルモノナリ。
　当商店街ノ主要顧客層トシテハ隣接地域ノ工場ノ工員及女工員首位ヲ占メ、都心ニ通勤官吏、会社員の家族之ニ次ギ、之等顧客層ノ出盛ル午後及夜間ハ歩行モ自由ナラザル程ナリ。
　尚、当商店街ノ特徴ハ地域及顧客層ノ関係モアリ、高価ナル贅沢品ヨリモ、寧ロ日常ノ必需品ヲ専門トセル商店多キタメ商店街ハ華美ナラザルモ、薄利多売を「モットウ」トシ、堅実ナル歩ミヲ続ケ、今後モ益々発展性多キモノト確信スル次第ナリ。

◆ 上記の文章を要約しますと、「武蔵野の寒村」だった十条(上十條村)が、十条駅の開設(明治43年)や、関東大震災(大正12年)による罹災者の移住によって、「空き地や緑樹の発見すら困難」なほどの住宅地となり、飛躍的な発展をとげた、とあり、人口増加によって自然に商店街が形成され、出来たのが十条銀座の始まりということです。
とりわけ「薄利多売」をモットーに生鮮食品を安く販売したのが評判となって「十条銀座は安い」との定評を受けるに至った。商店街は初め「銀座一丁目会」「銀座会」「昭和会」の3会に分かれていたので、監督官庁より3商店会を統一して商業組合を結成するよう指導を受けたが、時期尚早のため3商店会で「十条銀座連合会」を組織して共同宣伝・売出しを行った。
その後、組合結成の気運が高まり、昭和13年8月、3商店会を解散して「東京十條銀座商店街商業組合」を結成した。十条銀座の主要顧客は、隣接地域の工場に勤める工員、女工が首位を占め、これに次いで都心に通勤するサラリーマンの家族など。午後や夜間は歩くのもままならない人通りで、高価なゼイタク品よりも日常品を売る店が多く、華やかではないが、堅実な歩みを続けている、とあります。伝統は今も変わらず受け継がれていますね。

◆ 事業報告書には、昭和15年春現在の組合員名簿が掲載されています。こちらも長くなりますが、すべてご紹介いたします。尚、ここに記されている番地は、現在の番地とは異なり、古い番地で表示されています。

以上、昭和15年の名簿をご紹介いたしました。残念ながら、この名簿には店名が入っていません。
今後、どの方が何というお店のご主人だったのかも調査していきたいと思います。
戦後も十条で商売をされていたお店についてはだいたい分かるのですが、戦前に転出されたお店は分からない部分があります。もし、むかし十条で商売をなさっていた方の関係者で、この名簿にお名前が見える方がいらっしゃいましたら、商店街事務局までお知らせいただければ幸いです。

今回は、昭和14年度の事業報告書から、「沿革」と組合員名簿をご紹介しました。
ご年配の方々には、懐かしい名前がみつかったのではないでしょうか。
また今後も順次、古い名簿類をご紹介していきたいと思います。